「結婚」した娘から、両親への贈り物

『このひより』運営チームの染谷です。
今回ご紹介するのは、私が父と母にインタビューを贈った話です。自分自身の“結婚”をきっかけに「両親の本を作りたい」となぜ思ったか、本を作る過程でどんなエピソードが聞けたのかをご紹介したいと思います。
あくまで一つのギフトの形としてお読みいただきながら、「自分だったら、こんな場面で贈りたいな」とイメージを膨らませていただければうれしいです。

両親へ、ふたりの「本」をプレゼント

「こちらが、今までの戸籍。そして、こちらがおふたりの新しい戸籍です」

29回目の誕生日に、私は夫と婚姻届を提出し、自分の姓を変えました。区役所の方が見せてくれたのは、私の名前が抜けた家族の戸籍と、今誕生した夫との戸籍。並べられたふたつの戸籍を見ながら、これからの期待と同時にどこか、寂しさの混ざった複雑な感情が湧いてきました。

私と夫が出会って結婚を決めたように、いつか父と母にもこんな日があったはず。結婚して37年たっても(インタビュー当時)、普段からお互いを思いやっているのがよく伝わる両親のことが、ふと頭をよぎります。夫婦としての父と母の話を、もっと聞いておけばよかったなと思いました。

とはいえ、小さな頃から、ふたりの思い出話を聞こうとすると「いいの、いいの」と、笑ってはぐらされてばかりでした。聞きたい話や伝えたいことが沢山あっても、なんとなくタイミングがあわずにいました。

そんなとき、『このひより』で本のサンプルを作る話があがったのです。自分の「結婚」というタイミングがある今を逃したら、もうずっと聞けなくなってしまう話があるかもしれない。これからも家族であることに変わりはないけれど、「親子」という関係性に一つの区切りがつく今、ふたりの言葉を本に綴って残そう、と決めました。

競走馬の飼育とピーマン栽培を家業としてきた我が家では、家族みんなが働き手だった。活発で社交的な母と、穏やかで真面目な父、1歳違いの2人はいつでも仲が良い。どちらかがテレビを見ながら寝てしまえば、どちらかが毛布をかける。たまに父は新聞を読んでいる母の背中に猫を置いて、怒られることもある。いつでも変わらず楽しそうで、お互いを思いやっている印象だ。
私が生まれる前、どのようにして家族は繋がってきたのだろうか。
『この日』ーー2020年1月3日、初めてしっかりと父と母から昔の話を聞いてみた。

(『プロローグ 『この日のこと』より引用・一部改変)

ふるさとの景色に重なる、それぞれの人生

本に残したのは、父と母の幼少期のこと、お互いの第一印象や結婚式のこと、それから家族の思い出です。前半はそれぞれの記憶をモノローグで、後半はふたりの対話を綴りました。

どの話も、長年一緒に暮らしていた私がはじめて聞くものばかり。

北海道に来たのは、ハタチか21歳の時だったかな。なんで来たかって……北海道に来たいから来たんだ。だぁれもいなくて、広々とした自然の中で生きてみたいなぁと思ったんだわ。うーん、なんとなくその感じは、北海道以外で生まれた人なら分かるんでないのか。北海道って、そういうイメージがあったんだよな。

(『第1章 『敦』より引用)

宮城出身の父がこう話す一方、北海道生まれで、自然の中で遊びまわるやんちゃな子どもだった母は、実は「大きくなったら町で暮らしたい」と思っていたのだとか。

もしどちらか一人でも違う選択をしていたら、父と母は出会っていなかったのだと考えると、繋いでくれた北海道の自然の偉大さを感じました。

家は農家だったから、忙しくて手伝いばっかりだったでしょ。町に暮らす友達がうらやましく見えてさ。
 今は、ここが一番。この場所を見つけてくれたのは私の父さんなの。「太平洋が見えるところが良い」って、海の見える高台に家を建ててくれて。晴れた日なんか海がキラキラして綺麗でしょ。ここからの景色が大好きなんだ。

(『第2章 『美幸』より引用・一部改変)

そんなふたりの結婚式は、地元のみんなに作り上げてもらったのだといいます。準備には今も暮らす自宅が使われ、話し合いのあとはお酒で盛り上がっていたそう。きっと賑やかだったのでしょう。結納の前夜には「飼い猫のモモが結納品のスルメを食べちゃって……」という、笑い話も明かしてくれました。

ジグソーパズルをあてはめていくように、次々と繋がっていく昔の記憶と今の風景。自分も知る景色に当時のふたりを想像して、一緒にタイムスリップしたような気持ちになりました。私が生まれる前の両親の思い出話は、父と母を今まで以上に身近に感じさせてくれました。

インタビューで繋がった“あの日”の答え

インタビューの時期はちょうど、私たちの結婚指輪の話をしていた頃。ふと、私がまだ子どもだったときに、父が母に突然指輪を贈ったことを思い出しました。

それは親戚の結婚式に参加した帰り道でした。結婚式場内のショップに立ち寄った父が「母ちゃんにどの指輪が似合うか選んで」と、私と兄に言ったのです。当時は大役にワクワクしてその意味を深く考えていませんでしたが、父から母へのプレゼントなんてめずらしいなあ、と思ったのを覚えています。

あぁ、あの日ね。結婚した時、実は母ちゃんたち指輪無かったのさ。その時は別にそれで良いって思っていたんだけど。
 結婚式が始まるまで時間があったから、下のショップで何気なく指輪を眺めていたんだよね。綺麗だなぁと思って。そうしたら、帰りに父さんが突然指輪をプレゼントしてくれたんだよね。なんでわかったのかね。嬉しくて、今でもその指輪をしているのさ。

(第6章『これから』より引用・一部改変)

帰りの車中、父が「はい、これ母ちゃんに」と、母へ指輪を渡す姿。その光景を後ろから見て「私たちが選んだんだよ!」と、嬉しくて何度も声をかけたこと。

父には「さぁ……そんなこともあったな」と、相変わらずはぐらかされてしまったけれど。数十年たった今、“あの日”の答えがわかって、晴れやかな気持ちになりました。

「家族で言葉を贈りあう」体験

思い出深い1冊が完成したあと、コロナ禍でなかなか北海道に帰省できなかった私は、本を近くに暮らす兄に届けてもらいました。(現在、インタビューギフト『このひより』は関東〜関西圏のみ対応。)

電話で感想を聞くと、本が好きな父からは「ちゃんと本になってる。大したもんだなぁ」というお褒めの言葉。父なりに、静かに喜んでくれているようでした。母は「父さん、こんなこと考えていたんだね」と静かに笑ったあと「宝物ができたよ、ありがとう」と言葉をくれました。

また、両親のために作ったはずの本は、自分にとってもかけがえのない1冊になりました。インタビューで聞きたい話を決めるため、ゆっくりと過去を振り返った準備の時間も、昔は聞けなかった思い出話を両親とできた時間も、どれも良い時間でした。「本を作る」というイベントが、離れて暮らす家族の距離を、少し近づけてくれたように感じます。

少し照れくさい非日常感と、なんともいえない幸せのあった「家族で言葉を贈りあう」体験。両親に聞きたい話はまだまだあるので、これから先も家族みんなでこの本を開きながら、新しい思い出話ができたらいいなと思います。

関連記事

PAGE TOP